SEMICON SHINBUN / TECHNICAL NOTE
GaN HEMTはなぜノーマリーオフが難しいのか――2DEG・p-GaN・カスコードで読む
GaN HEMTがゼロゲート電圧で導通しやすい理由を2DEGからたどり、p-GaNゲートとカスコードがノーマリーオフを実現する仕組みと設計上の違いを整理する。
セミコン芯聞 編集部 / 公開資料に基づく技術解説
GaN HEMTは高速な電力変換を支える一方、素のAlGaN/GaNヘテロ構造ではゲート電圧が0 Vでも電流の通り道が存在する。電源投入時や駆動回路がまだ立ち上がっていない場面を考えると、制御信号がないときにオフである方が扱いやすい。そこで実用製品では、デバイス構造でチャネルを消すp-GaNゲートと、回路接続で振る舞いを変えるカスコードが代表的な解となる。両者を「ノーマリーオフ」という同じ言葉だけでまとめず、どこでオフを作っているかから読み解く。
出発点は、電圧をかけなくても存在する2DEGである
AlGaN層とGaN層を接合すると、結晶の自発分極と格子ひずみによる圧電分極の差から、界面付近に正の固定電荷が生じる。電荷のつり合いを取る電子は界面の薄い領域に集まり、面内を動ける二次元電子ガス(2DEG)を形成する。シリコンMOSFETの反転層のように、正のゲート電圧を加えて初めてチャネルを作る仕組みとは出発点が違う。
標準的なAlGaN/GaN HEMTでは、この2DEGがゲート電圧0 Vでも残る。そのためドレインとソースの間は導通可能であり、負のゲート電圧で2DEGを空乏化してオフにするデプレッションモード、すなわちノーマリーオンになる。GaNが「自然にオンしたがる」のではなく、分極で生じたチャネルを平衡状態ですでに持つ、と捉える方が正確である。
電力変換器では、起動直後、ドライバー電源の低下時、制御信号の途絶時にもスイッチの状態を決めなければならない。0 Vでオフなら、ゲートを積極的に負電圧へ引かなくても遮断状態を作りやすい。ただしノーマリーオフだけで装置の安全が保証されるわけではない。誤点弧を防ぐゲート回路、短絡時の保護、デッドタイム、絶縁、熱設計を含むシステム全体の設計が別に必要である。
p-GaNゲートは、ゲート直下の平衡状態を変える
p-GaNゲート方式では、AlGaNバリアの上、ゲート電極の直下にMgなどを添加したp型GaN層を置く。この層が作る内蔵電位によって伝導帯を持ち上げ、ゲート電圧0 Vではゲート直下の2DEGを空乏化する。左右に2DEGがあっても中央が切れていれば、ドレインからソースへ連続した経路はない。正のゲート電圧がしきい値を超えると、その部分のチャネルが回復してオンになる。
この方法は、一つのGaNスイッチの内部でエンハンスメントモードを作る考え方である。ただし「正電圧を入れればよい」だけではない。p-GaNゲートはしきい値が比較的低く、ゲートへ許容される電圧範囲もシリコンMOSFETと同じとは限らない。実装ではデータシートの推奨ゲート電圧、最大定格、ゲート抵抗、ドライバーのクランプやレイアウトまでを一組で読む必要がある。
カスコードは、二つの素子を接続して外からノーマリーオフに見せる
カスコード方式は、ノーマリーオンの高耐圧GaN HEMTと、ノーマリーオフの低耐圧Si MOSFETを直列に接続する。外部ゲートはSi MOSFETを駆動し、Si MOSFETがオフになると内部接続点の電位が変化してGaN HEMTのゲート・ソース間に負方向の電圧が生じ、GaN側もオフになる。外部からは、ゲート信号がないと電流を遮断する一つのスイッチとして扱える。
利点は、シリコンMOSFETに近いゲートしきい値と既存のゲート駆動の考え方を使いやすいことである。一方、電流経路にはGaNとSiの二つの素子が入り、オン抵抗は両方の寄与を受ける。さらに低耐圧MOSFETの容量やボディダイオード、二つのチップを結ぶ内部配線が、逆方向導通や高速スイッチング時の挙動に関わる。回路記号が一個に見えても、内部ノードを持つ複合デバイスとして考える必要がある。
比較軸は「どちらが上か」ではなく、駆動と実装の境界である
p-GaNはデバイス構造の中で2DEGを切り、カスコードはSi MOSFETを介した回路動作でGaNを切る。この違いは、ゲートドライバー、許容ゲート電圧、逆方向導通、寄生インダクタンス、スイッチング速度の調整方法へ波及する。したがって方式名だけで効率や使いやすさを決めつけず、同じ電圧・電流・温度・スイッチング条件で、メーカーのデータシートと評価回路を比較する。
回路設計者なら、ドライバーの電源電圧と吸い込み能力、ターンオン/ターンオフ抵抗、共通ソースインダクタンス、デッドタイムを確認する。デバイス技術者なら、p-GaN層とゲート接触、AlGaNバリア、しきい値を生む電位分布を見る。実装技術者なら、カスコード内部と外部のスイッチングループを分けて追う。同じ「GaN採用」でも、担当職種によって読むべき境界が違う。
データシートでは方式名の次に、五つの項目を確認する
第一は推奨ゲート電圧と最大定格、第二はしきい値電圧の条件、第三はゲート電荷と入力容量、第四は逆方向導通時の電圧と電荷、第五はパッケージの端子配置である。しきい値電圧は、規定された小さなドレイン電流が流れ始める点であり、低損失で完全にオンするための駆動電圧とは違う。代表値だけでなく最小値・最大値と測定条件を合わせて読む。
高速化では、素子のカタログ値だけでなくループの形も性能になる。ドライバーからゲートへ向かう経路と戻り経路が長ければ、寄生インダクタンスによる電圧変動がゲートへ重なりうる。カスコードでは外部端子の内側にもSi MOSFETとGaN HEMTの接続があり、p-GaNでは許容ゲート電圧に対する余裕が重要になる。評価基板の波形を自分の基板へそのまま移せない理由はここにある。
製品名にはE-mode、enhancement mode、p-GaN、GIT、cascodeなど複数の表記が現れる。名前が似ていても内部構造と推奨駆動条件が同じとは限らないため、メーカーが示す等価回路、端子定義、アプリケーションノートへ戻る。構造を推定で補わず、公開された範囲と回路上の観測を分けることが、比較の前提である。
求人票と面接では、構造から設計判断まで一段ずつつなぐ
GaNデバイス、ゲートドライバー、電源回路、パッケージの求人を読むときは、材料特性の暗記だけで終わらせない。「AlGaN/GaN界面の分極で2DEGができる」「0 Vでも2DEGが残るため素のHEMTはノーマリーオンである」「p-GaNはゲート直下を空乏化し、カスコードは低耐圧MOSFETとの接続で外部動作を変える」と因果を三段で説明できると、職務の境界が見えやすい。
面接で方式選択を問われたら、万能な勝者を答える必要はない。対象の電圧、周波数、ゲート駆動、逆方向導通、熱設計、パッケージを先に確認し、その条件で何を比較するかを述べる。ノーマリーオフは製品名ではなく、チャネル、ゲート、回路接続を横断して実現される設計要件である。この見方が、デバイス物理と電源回路を結ぶ入口になる。
参照した公開資料
本文は以下の公開資料を出発点に、編集部が技術的な背景を整理したものです。
- Puほか「Review of the Gate Structure for Normally Off p-GaN High-Electron-Mobility Transistors Towards High Performances」Materials(2026年5月23日公開、2026年10月13日確認)
- Grecoほか「An Overview of Normally-Off GaN-Based High Electron Mobility Transistors」Materials(2019年5月15日公開、2026年10月13日確認)
- 東芝デバイス&ストレージ「カスコードタイプのディスクリートGaNパワーデバイス」(2020年9月25日公開、2026年10月13日確認)
- 新電元工業「GaN-HEMTの特徴」(2026年10月13日確認)
本記事は記事末尾に掲げた公開資料のみを参照しています。特定企業・顧客の非公開情報は使用していません。