SEMICON SHINBUN / TECHNICAL NOTE
【特集】「成果給6000万円」の韓国サムスン電子――半導体人材をどう採るのか
韓国サムスン電子DS部門の3級新入公採を、組織、選考、英語要件、三つの職務から解剖し、キオクシアの新卒採用と比較する。
セミコン芯聞 編集部 / 公開資料に基づく技術解説
韓国のサムスン電子で、半導体部門の従業員が成果給を含め約6億ウォン、円換算でおよそ6000万円を受け取る可能性がある――2026年5月、そんな試算が韓国で報じられた。もちろん全員への確定額ではない。それでも日本の技術者には、報酬の数字だけでなく、同社が大卒新人をどの組織・職務へ振り分けるのかが興味深い。2026年下期のDS部門「3級新入公採」を、キオクシアの新卒採用と並べて読む。
6000万円は確定賞与ではなく、条件付きの試算である
韓国経済新聞が示した約6億ウォンは、労使が暫定合意した新しい特別成果給の算式に、将来のDS部門業績予想などを当てはめた税引き前の試算である。既存のOPIに特別成果給を加えた場合の上振れ例であり、採用時に保証される年収でも、全社員へ一律に支払われる額でもない。
確認できる実績として、サムスン電子労組は2025年実績分のOPIを半導体部門で年俸の47%と公表している。大きな成果配分が人材獲得の看板になる一方、半導体市況と所属事業部の業績で変動する報酬である。数字の派手さと制度の不確実性は分けて読む必要がある。
DS部門は一つの工場ではない
DS(Device Solutions)は、DRAM・NANDなどを扱うメモリー事業、モバイルSoCやセンサーを設計するSystem LSI事業、外部顧客の半導体を製造するFoundry事業を中核とする。さらに先行技術を担う半導体研究所、パッケージとテストを担うTSP、製造・業務のデジタル化を担うAX・PI組織が並ぶ。
2026年下期の職務技術書は、同じ職務名でも配属先ごとに製品、勤務地、使う技術を分けている。応募者は単に「サムスンの半導体」に入るのではなく、メモリー、ロジック、ファウンドリー、後工程、研究、工場ITのどの問題を解くかまで選ぶ構造である。
「3級公採」は大卒新人向けの共通入口
3級は能力が三等級という意味ではなく、韓国の大企業で使われてきた大卒新人採用区分である。サムスンの新卒公採は原則として年2回。2026年下期DS募集では、2027年2月までの卒業見込みを含む大卒者を対象に、職務適合性評価、GSAT、総合面接、健康診断の順で進む。
書類では専攻科目、経験、資格、エッセーを職務との適合性から見る。GSATは研究開発・技術職にも共通する数理・推理中心の適性検査で、その後に役員面接、職務面接、創意性面接が続く。技術だけでなく、問題をどう分解し説明するかまで段階的に見る集中選考である。
信号・システム設計、半導体工程技術、回路設計など技術職の最低語学要件はOPIc ILまたはTOEIC Speaking 110。英語は単なる加点ではなく応募資格の線になる。中国語や漢字能力、関連資格・プロジェクト、論文、コンテスト経験などは職務ごとに優遇要素として示される。
三つの職務名を、実際の動詞へ翻訳する
半導体工程技術は、フォト、エッチ、洗浄、CMP、拡散、イオン注入、金属、CVDなどの工程条件を最適化し、欠陥を解析し、歩留まりと生産性を上げる仕事である。材料・物理・化学の分析力に加え、RやPython、統計を使うデータ処理が歓迎され、配属によっては交替勤務もある。
回路設計は配属先で姿が変わる。System LSIではAP、モデム、センサー、PMICなどのアナログ・デジタルIP、RTL、検証、DFTを扱う。Foundryでは標準セル、SRAM、I/O、HBMを含む高速インターフェース、PDKや設計手法まで顧客設計を支える。Verilog、C/C++、Python、EDAツールの経験が職務記述に直結する。
信号・システム設計という名称は、日本語から連想する通信・DSPだけではない。今回のAX・PI枠では、MES、設備・検査データ基盤、デジタルツイン、物流ロボット、クラウド、Kubernetes、SREなど、自律化工場を作るIT・データ職の色が強い。職務名より、募集文に並ぶ動詞とツールを読むべき例である。
キオクシアもジョブ型だが、入口の幅が違う
キオクシアの2027年卒技術系採用は、製品・デバイス開発、プロセス・パッケージ開発、システム・ソフトウェア・回路設計、顧客技術・評価解析・品質という四つのJDから希望を出す。書類選考後に1~2回のキャリアマッチング面談、最終の人事面談へ進み、採用予定は技術系約200人。公開ページではサムスンのような応募時の英会話スコア下限は掲げていない。
したがって「韓国は職務別、日本は総合職」という単純な対比はできない。キオクシアも専門と希望をJDへ結び付ける。一方、サムスンは事業部・職務・勤務地をより細かく切り、全社共通のGSATと複数面接を通す。キオクシアは四つの広い入口から、面談で専門との接点を合わせる色が強い。
日本の応募者が参考にできるのは、報酬額より職務技術書の読み方である。職種名、製品、工程、勤務地、使用言語、ツール、勤務形態を別々の列に置けば、自分の授業・研究・制作経験がどこへ接続するかが見える。大企業の名前に応募するのではなく、その組織が解こうとしている問題へ応募する――サムスンの公採は、その要求を露骨なほど詳細に示している。
本記事は記事末尾に掲げた公開資料のみを参照しています。特定企業・顧客の非公開情報は使用していません。