SEMICON SHINBUN / TECHNICAL NOTE
MOSFETはなぜ電圧でスイッチできるのか――VGS・しきい値・波形の読み方
ゲート、ドレイン、ソースの関係から、しきい値電圧と完全オンの違い、ゲート電荷、三つの基本波形を読み解く。
セミコン芯聞 編集部 / 公開資料に基づく技術解説
MOSFETは「ゲートに電圧を加えて電流を切り替える素子」と説明される。ところが、ゲート電流はほとんど流れないのに高速で駆動電流が必要になり、しきい値電圧を超えても十分にオンしたとは限らない。この二つを矛盾だと思わず、電圧・電荷・波形を順に結ぶことが、回路設計やデバイス開発の求人を読む土台になる。
三端子ではなく、まず二つの電圧差を読む
NチャネルMOSFETの主な端子はゲート(G)、ドレイン(D)、ソース(S)である。回路図では、負荷電流が通るドレイン–ソース経路と、それを制御するゲートを分けて見る。低側スイッチなら、ソースを基準にしたゲート–ソース間電圧VGSが上がると導通し、オンした後のドレイン–ソース間電圧VDSは小さくなる。
ここで重要なのは、ゲート電圧VGを接地基準だけで読まないことである。ソース電位が動けば、同じVGでもVGSは変わる。データシートの端子条件やオシロスコープ波形でも、何を基準に測った電圧かを先に確認したい。VGS、VDS、ドレイン電流IDの三つを対応させると、記号が動作へ変わる。
ゲート電圧は、絶縁膜越しにチャネルを作る
MOSFETのゲートは薄い絶縁膜によって半導体から隔てられている。Nチャネル素子では、ゲートをソースより正にすると表面の電荷分布が変わり、電子が流れる反転層、すなわちチャネルが形成される。チャネルができる前は遮断、形成後はドレインとソースの間に電流経路が生まれる。
このため定常状態のゲートには、理想的には直流電流を流し続ける必要がない。しかし「電流が不要」と言い切るのも誤りである。ゲート、ソース、ドレインの間には容量があり、オン・オフを切り替えるたびに電荷を出し入れする。静止中の漏れ電流と、切替中の充放電電流を分けて考える必要がある。
しきい値は「流れ始め」であり、完全オンの保証ではない
ゲートしきい値電圧VGS(th)は、規定された小さなドレイン電流が流れ始める条件として示される。これはチャネル形成の境界を読む値であって、大電流を低損失で流せる駆動電圧ではない。しきい値付近ではチャネルが十分に強くなく、オン抵抗RDS(on)は大きい。
部品選定では、RDS(on)がどのVGSで規定されているかを見る。たとえばゲートドライバーが実際に出せる電圧と、データシートのオン抵抗測定条件が合っているかを確認する。VGSを高くすればよいという単純な話でもなく、ゲート–ソース間の絶対最大定格とサージを越えてはならない。しきい値、推奨駆動条件、最大定格は別の欄で別の役割を持つ。
ターンオン波形では、VGS・ID・VDSの順序を見る
ターンオン時、駆動回路はまずゲート容量へ電荷を入れ、VGSを上げる。VGSがしきい値を越えるとIDが増え始める。その後、ゲート–ドレイン間の電荷を動かす区間ではVGSの上昇が一時的に緩やかになり、VDSが大きく下がる。これはミラープラトーと呼ばれる。最後にVGSが駆動電圧へ達し、RDS(on)で示される低いオン状態へ近づく。
ゲート総電荷Qgは、規定条件でオフから所定のVGSまで切り替えるために必要な電荷である。小さいほど必ず優れているわけではなく、オン抵抗との交換条件がある。入門段階では、ゲート抵抗と駆動能力が充放電の速さを変え、速さはスイッチング損失やノイズにも関係する、と因果関係を追えればよい。長い式より、三波形のどこで電流と電圧が重なるかを読む方が先である。
求人と面接では、同じ波形を別の仕事へ翻訳する
回路設計は、負荷電流、駆動電圧、RDS(on)、Qg、スイッチング速度から素子とゲート駆動を選ぶ。デバイス設計は、ゲート絶縁膜、チャネル寸法、セル構造がしきい値、オン抵抗、容量にどう影響するかを考える。プロセス技術は、その構造をばらつきの範囲内で作る条件を組み立てる。同じVGS–ID特性やゲート電荷曲線でも、職種ごとに「選ぶ」「設計する」「作り込む」という動詞が変わる。
面接でMOSFETを説明するなら、「電圧制御素子」で終わらず、絶縁ゲートがチャネルを作り、定常時のゲート電流は小さい一方、切替時には容量を充放電するため駆動電流が要る、とつなげたい。さらに、しきい値は流れ始めの条件で、完全オンはRDS(on)の測定条件から判断すると加えれば、回路とデータシートを往復していることが伝わる。
自分で確かめたい問いは三つである。なぜゲート電圧ではなくVGSを読むのか。VGS(th)をそのまま駆動電圧にしてはいけないのはなぜか。直流ゲート電流が小さくても、切替中に駆動電流が必要なのはなぜか。三問を図なしで説明できれば、次はBJTとの違い、CMOS、増幅回路へ進みやすい。
参照した公開資料
本文は以下の公開資料を出発点に、編集部が技術的な背景を整理したものです。
本記事は記事末尾に掲げた公開資料のみを参照しています。特定企業・顧客の非公開情報は使用していません。